
前立腺がん放射線治療のハイドロゲルスペーサー留置(SpaceOAR)
SpaceOAR・ハイドロゲルスペーサーとは?
当院では、前立腺がんへの放射線治療を行う際に、放射線の直腸への影響を低減する目的で行う 『ハイドロゲル直腸周囲スペーサー・SpaceOAR』の留置を行っています。

SpaceOAR Systemの製品キットです。
放射線治療は、前立腺がんに対する根治治療のひとつとして定着しており、外部照射(IMRTなど)、密封小線源治療(シード治療)など様々な方法があります。
放射線治療を行う際の主な有害事象(副作用)の一つに、直腸への影響(直腸有害事象)があります。これは、放射線で前立腺のみ治療したいものの、隣接する臓器にも放射線がかかってしまうことにより発生します。
機器や技術の進歩で、前立腺にできるだけ放射線を集中させることは可能になりましたが、依然、直腸有害事象は一定頻度で発生します。その多くは、程度の軽い直腸出血や肛門痛といったものです。しかし、頻度は低いものの、時に放射線照射から時間が経って発生する、直腸と前立腺の間に瘻孔ができてしまうような重篤なことも発生します。
放射線の影響は、距離が離れれば低減します。通常、前立腺と直腸は完全に隣接しているため、前述したように前立腺への放射線治療で直腸は影響を受けやすい状況ですが、前立腺と直腸の間にゲル状の物質を挿入し、前立腺と直腸の間を1~1.5cm程度離すことで直腸被曝を低減させる処置が、『ハイドロゲル直腸周囲スペーサ・SpaceOAR』留置です。


前立腺と直腸の間にスペーサを介在させ、直腸前面に高い線量がかからないようにします。
このゲルは、前立腺と直腸の間に留置されると放射線治療中(約3カ月間)はその形態を保ち、その後吸収され消失します。


経時的なMRI画像では、6カ月後にはゲルが吸収されて消失しています。
実際の留置手技
どのような放射線治療を行う予定か、によって麻酔法やスペーサの挿入時期が異なります。
外部照射を行う予定のかたは、外部照射前開始より前に、局所麻酔でスペーサー留置を行います。局所麻酔下の施術も、痛みの程度は軽度で行えています。 密封小線源治療を受ける方は、小線源治療と同時に行っています。小線源治療は全身麻酔で行っており、小線源治療の直後に連続してスペーサー留置を行うので痛みはありません。小線源治療でスペーサー留置を小線源留置の後に行うのは、スペーサー留置を先に行うと超音波画像で小線源の視認性が悪くなるからです。
スペーサー注入の副作用としては、会陰部の痛みや不快感、血尿、血便、感染、アレルギーなどが報告されていますが、ごく軽度なものを含めて発生頻度は10%以下とされています。 当院ではこれまでに約800例(2025年3月末現在)のスペーサー留置を行いましたが、発熱、疼痛や瘻孔を認めたかたが2例のみであり、安全性の高い手技と考えています。 また、このスペーサー留置手技は2018年6月から保険適用になりました。
この手技に関する詳細・ご質問は、いつでも担当医にお尋ねください。
当科医師は、Boston Scientific Corporationから施行医認定を受けています。

