top of page
9.png

前立腺がんの小線源治療(ブラキセラピー)(シード治療)

私たちは放射線治療科と連携して、前立腺がんの小線源治療(シード治療・ブラキセラピー・密封小線源治療とも呼ばれます)を昭和医科大学病院で2005年から開始し、2015年からは当院で行っています。現在(2025年3月末)までに約1,800件の治療を行いました。
以下、この小線源治療について解説します。

P-28.JPG
20250410_144957~2.JPG
1640315120621.png

小線源治療とは

1

小線源治療とは、放射線を出す 『シード(線源)』 と呼ばれる小さな筒状のものを前立腺内に挿入して、前立腺がんを治療する放射線治療です。シードはチタニウム製で、ヨウ素125が封入されています。会陰から針を刺入し、針の内腔を通してシードを前立腺内に直接留置することで効果的に放射線を照射することができます。
手術は短時間で体への負担が少なく、入院も短期であり、良好な長期治療成績が多数報告されています。本邦では年間約2500人の患者さんがこの治療を受けています。
小線源治療は米国施設で1970年代に行われましたが、開腹手術で行っていたため技術的にシードを適切に前立腺内に留置するのが困難でした。しかし、1980年代に超音波機器やCT、コンピューター技術が発展し、現在の会陰から針を刺入してシードを前立腺に挿入する方法が確立され、適切なシード留置が可能となり現在に至っています。

image.png

実物のシード。大きさは約5×1㎜です。

模式図.png

小線源治療を体の側面からみた模式図です。

2

小線源治療の適応

基本的にリンパ節や他の臓器、骨に転移のない前立腺がん(限局性前立腺がん)が対象になります。転移のない前立腺がんでも、以下に該当する方は小線源治療を行うのが適当でない場合がありますので、担当医とよく相談してください。

 

・治療体位(脚を上げて開く)が取れないかた

・肛門から超音波機器を挿入できないかた

・重度な持病のあるかた(他部位の進行がん、心疾患、糖尿病など)

 

他に、以前に前立腺肥大症の内視鏡手術を受けた方は、多くの場合は小線源治療が行えますが、担当医による評価が必要です。以前は前立腺体積が大きい(約40c.c.以上)かたは、1人の患者さんに使用できるシード数の上限の規定があるため良好な線量分布を得るのが困難となり、治療に適切な患者さんとは言えない場合がありました。しかし、現在は線量制限値が変更されたので、40c.c.以上の前立腺体積のかたでも治療対象となり得ます。

小線源治療の治療方法

3

まず、前立腺がんの診断時に行った検査結果から 『リスク分類』 を行い、リスクに応じて小線源治療のみ行うか、外部照射やホルモン療法との併用治療を行うか決めます。

リスク分類を行う

3-1

当科では次の3つの検査結果をもとに、低リスク・中リスク・高リスク・超高リスクの4つにリスク分類しています。

 

1) PSA値:生検を行う前のPSA値

2) グリーソンスコア:前立腺生検の病理組織検査結果

3) T分類:画像診断(MRI)でのがんの広がりの評価

 

具体的な数値を示したリスク分類は以下の表のようになります。

シード治療 リスク分類表.png

※例えば、PSA値が9ng/mLで、T分類がT2a、グリーソンスコアが7であれば、中リスク群です。
​すなわち、3つの要素のうち1つでもより高いリスクに概当すれば、そのリスクに分類されます。

リスク分類に応じた治療を行う

3-2

分類されたリスクによって、以下の治療が適用されます。

 

1) 低リスク: 

  A; シード治療単独(160Gy)

  B; シード治療(110Gy)+外部照射(45Gy, 前立腺+精嚢腺)

  ※中リスクでも、より悪性度が高いと判断した場合にBを行います。

2) 中リスク: ほとんどの症例は小線源治療のみ(処方線量160Gy)

  一部の症例(GS4+3かつ生検陽性コア率33%以上)には、小線源治療(110Gy)+外部照射(45Gy)の併用治療

3) 高リスク: 小線源治療(110Gy)+外部照射(45Gy, 全骨盤照射)+ホルモン療法(トリモダリティ治療)

 

• ホルモン療法は、基本的に術前は毎日1錠の内服薬と1~6ヶ月に1回の皮下注射です。放射線治療後に継続するホルモン療法は皮下注射のみです。

• 小線源治療は3泊4日の入院治療です。

• 外部照射は、小線源治療の約1カ月後から外来通院で行います。約5週間の通院(休日を除く月曜から金曜連日)が必要になります。

brachytherapy-38.jpg

高リスク症例の外部照射の照射範囲です。

31.tif
32.tif

当院の外部照射の設備です。エレクタ社のインフィニティというIMRTを導入しています。

小線源治療の施行時には、可能な限り局所再発することなく前立腺がんの治療を終わらせたいと考えています。なぜなら局所再発した場合、ホルモン療法以外の放射線治療や前立腺全摘除術などの救済治療は、不可能ではないものの行いにくい面もあるからです。そのため、私たちは2006年から小線源治療の線量増加をから開始し、より高い腫瘍制御を目指してきました。線量増加後、中リスク症例のほとんどには小線源の単独治療を適用しています。

 

また、さらに腫瘍制御が困難な高リスク症例には、小線源治療に中等度の外部照射併用して最大限の線量増加を行い、さらにホルモン療法を併用するトリモダリティ治療も早期から開始して治療成績向上への取り組みをしてきました。 線量増加を行うことで、治療に伴う有害事象の増加も懸念されますが、直腸の有害事象に関しては、2018年4月から小線源治療の終了時にハイドロゲルスペーサー(SpaceOAR、スペースOAR)の留置も行い、直腸線量を低減しています。

当科の治療成績

3-3

当科での高リスク前立腺癌へのトリモダリティの長期治療成績です。

トリモダリティ非再発生存率.png

PSA非再発生存率(小線源治療後、PSAが再発と定義される値まで上昇しない率)は、5年で97.8%、10年で91.6%と現在まで非常に良好です。

直腸被ばく線量を低減するためのハイドロゲルスペーサーに関する動画です。

当院でのハイドロゲルスペーサーを併用した小線源治療の初期の100症例を検討すると、スペーサーは96%の症例で適切な形に留置され、スペーサーにより作られた前立腺背面と直腸前面の距離は平均 約11.6mmでした。また、術後線量計算においてスペーサー留置を行わなかった症例と比較して有意な直腸線量(RV150・RV100)の低減を認めています(下表)。

image.png

小線源治療全般に関して、『前立腺がんのI-125密封小線源治療』で詳しく解説していますので、ご参照ください。

4
キャプチャ.PNG

小線源治療のメリット

良好な治療成績が見込める

4-1

低~中リスク症例は、良好な治療成績が見込めます(手術、外部照射と同等)。

高リスク症例は、小線源治療と外部照射の併用で、外部照射単独では達成できない高い生物学的等価線量(BEDと呼ばれます。BEDが低いと治療成績は低下するとされています)が得られ、またさらにホルモン療法を加えたトリモダリティ治療は、手術や外部照射の単独治療、または外部照射とホルモン療法の併用治療よりも優れた治療成績が見込めると考えられています。

 

さまざまな前立腺がんに対する治療法の生化学的治療成績(長期)を、リスク別に比較した報告の1例を下図に示します。手術後と放射線治療後では、使用される生化学的再発(=PSA再発)の定義が異なる、などの留意点はありますが、どのリスクにおいても小線源治療、または小線源治療を含む併用療法は優れているのがわかります。

image.png

この論文の詳細はこちらから参照できます。

短期間で通常の生活に戻れる

4-2

小線源治療は低侵襲(体の負担が少ない)な治療です。治療は開腹手術ではなく、会陰から針を刺入する手技なので、縫合するような創もできません。そのため入院期間は3泊4日と短期で、退院後の自宅療養も通常必要ありません。

手術(前立腺全摘除術)は約2週間の入院が必要となり、外部照射は外来通院で行えるものの約9週間 連日の通院が必要になります。こうした点で、小線源治療は通常の生活に早く戻ることができる治療です。

治療による有害事象(副作用)は通常程度が軽い

4-3

外部照射で体外から前立腺を照射する場合、位置合わせを行うものの、照射機器の誤差や前立腺の位置変化を考慮してマージンをとり、照射範囲は前立腺よりも大きく取ります。そのため、直腸・膀胱のような前立腺に隣接する臓器の一部が高い線量域に含まれることがあります。一方で小線源治療は、放射線を放出するシードを前立腺内に直接留置し、さらに急峻な線量勾配を作れるために前立腺に高い線量を付与しながら周囲臓器への影響を少なくすることができます。そのため、外部照射と比較して程度の強い直腸の有害事象が発生する頻度は低く、重度の急性期、晩期の有害事象の発生率はそれぞれ1.0%、1.9%程度とされています。
 

ただし、外部照射との併用治療を行った場合は頻度が増加します。直腸有害事象の症状は下痢、血便、肛門痛、粘液便などで、放射線性直腸炎を起こすことがあります。当院では前述したように吸収性ハイドロゲルスペーサー(SpaceOAR)の留置を併用しており、直腸が前立腺周囲に生じる放射線の高線量域から離れるために直腸前面の被ばく線量が減少することが可能で、外部照射併用の小線源治療に関しても晩期(1年以上経過後)の直腸有害事象の発生は減少しています。

また、治療後の尿失禁および性機能の維持に関して、手術や外部照射との比較が気になるところです。尿失禁と性機能維持は手術に比べて放射線治療が優れ、小線源治療と外部照射で同程度の発生率です。本邦のデータでは、小線源治療後3年で28.7%の患者さんが性機能が保持されたとされています。ただし性機能は年齢に大きく左右され、術前から性機能低下がみられている場合も高齢者に多い前立腺がんの特性上頻繁にみられます。

小線源治療のデメリット

5

尿路有害事象(排尿症状)は発生しやすい

5-1