top of page
4.JPG

前立腺肥大症・過活動膀胱などの下部尿路症状

下部尿路症状とは?

下部尿路症状を有する中高齢者の頻度は極めて高く、加齢とともに増加します。下部尿路症状とは、尿をためる、出す、に関連する症状を広く意味する用語で、主に『蓄尿症状』、『排尿症状』、『排尿後症状』の3つに分けられます。

蓄尿症状とは、頻尿(尿の回数が多い)、夜間頻尿や、急に抑えきれないような強い尿意を感じる尿意切迫感、不随意に尿が漏れる尿失禁などのことです。排尿症状とは、尿勢の低下(尿の勢いが弱い)、尿線の途絶(排尿が1回以上途切れる)、排尿遅延(排尿準備ができてから開始までに時間のかかる)などです。排尿後症状とは残尿感(排尿後に完全に膀胱が空になっていない感じがする)、排尿後尿滴下(排尿直後に不随意的に尿が出てきてしまう)を含みます。
これらの症状は男性でも女性でも起こり、さまざまな病態、病気が関連していることがあります。そして、このような生活の質(Quality Of Life; QOL)を低下させるような症状を改善するために様々な治療を行っています。

下部尿路症状をおこす疾患で代表的なものに前立腺肥大症、過活動膀胱、脳血管障害や末梢神経障害などの神経の病気、尿道狭窄症などがあります。これらの病態と診断、治療をご説明します。

前立腺は男性にしかなく、精液の一部をつくっている臓器です。膀胱のすぐ下にあり、ちょうどクルミほどの大きさで、排尿時に内部を尿が流れます。この前立腺が年齢とともに肥大することにより、尿道が圧迫されて排尿障害をもたらします。

前立腺肥大症は年齢と関連が深く、40・50代で症状が出始め、60歳を過ぎると、半数以上の人が夜間頻尿と尿勢低下を訴え、65歳

前後で治療を開始する人が多くなります。そして、80歳までには80%の人が前立腺肥大症になるとされています。程度の差こそあれ、高齢の男性にほぼ全員発症するため、男性の更年期症状や、老化現象の一種という見方もできます。 がんとは違って良性の病気で

あり、生命に直接かかわるようなものではありませんが、放置しておくと尿閉(尿が全く出せなくなる)や、腎不全の原因となることも

ありますので、50歳を過ぎて尿の出が悪いと感じたら、受診することをお勧めします。

zoom.png
前立腺肥大症 図.png

・前立腺は右葉と左葉に分けられ、尿道は中央を

 トンネルのように走っています。

・尿道は前立腺の圧迫を受けないので尿の流れは

 スムーズです。

・前立腺肥大症では、前立腺は外側に大きくなるのと同様に

 内側へ尿道をつぶすようにも大きくなるので尿道が狭く

 なります。

​・結果、排尿困難や排尿時間の延長、残尿増加などが

 おこります。

前立腺肥大症の診断には、一般的に次のような検査が必要です。

国際前立腺スコア

また、前立腺に関係する症状(尿の勢い、排尿回数、尿が残った感じなど)を点数にして前立腺肥大症の重症度を調べる「I-PSS(国際前立腺症状スコア)」という質問表が使われており、一般に7点以下が軽症、20点以上が重症とされています。

「EBMに基づく前立腺肥大症診療ガイドライン」より

前立腺肥大症に対する治療法には大きく分けて、薬物療法と手術療法があります。

  1. 機能的閉塞に対するα1-ブロッカー

  2. 機械的閉塞に対する抗アンドロゲン剤

  3. PDE-5阻害薬

  4. 不安定膀胱に伴う刺激症状(頻尿、尿意切迫、切迫性尿失禁)に対する生薬・漢方薬、抗コリン薬

があります。

これらの項目が基本となり、第一選択薬としてα1-ブロッカーを使用し、機能的閉塞を解除することから行われます。
なお、α1-ブロッカーは、高血圧の治療にも使われることがありますので、高血圧の治療を行っている場合(特に他の医療機関で治療中の場合)は、医師に必ず伝えてください。
手術の適応とする一定の基準はありませんが、尿閉の既往のあるかたや、総合的な評価で中等症から重症の前立腺肥大症のかたが対象になります。

TURP

先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から少しずつ削り取ります。当院では、還流液に生理食塩水を用い、より合併症の少ないバイポーラ電極使用のTURPを行っています。

1. 経尿道的前立腺切除術(TURP)

luts_03.jpeg
zoom.png
TURP 図.png

・従来から標準的とされている手術法です。

・電気メスで尿道に突出した前立腺を切除します。

・当科は還流液に生理食塩水を用いたバイポーラTURPを行っています。

holep

 2. 経尿道的前立腺レーザー核出術(HoLEP)

TUR-Pと同様に内視鏡を尿道から挿入しますが、電気メスは使用せずレーザーで腫大した前立腺を一塊に核出します。核出した前立腺は膀胱内でモーセレーターという機器で吸引し体外に出します。TURP同様に当院で施行可能な手術です。

luts_04.jpeg
zoom.png
HoLEP 図.png

・レーザーで前立腺の内腺を核出します。

・前立腺内に切り込まないので出血量が少なくなります。

​・大きな体積の肥大症にも対応できます。

3. 経尿道的水蒸気治療(WAVE治療)ーRezum(レジューム)

過活動膀胱とは下に示す「尿意切迫感」があり、しばしば「頻尿」を伴い、ときに「切迫性尿失禁」をきたす病気です。

  1. 急に、尿意をもよおし、漏れそうになる(尿意切迫感)

  2. トイレが近い(頻尿)、夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)、トイレへ行く回数が日中で5~7回、寝ている間は0回が正常と言われています。 日中の排尿回数が8回以上、夜間も1回以上排尿がある場合は頻尿(夜間頻尿)です。

  3. 急に尿意を催し、トイレまでがまんできず漏れてしまうことがある(切迫性尿失禁)、または尿意切迫感だけでなく、場合によってはトイレまで我慢できずに尿が漏れてしまうこともあります。

40歳以上の男女の8人に1人が、過活動膀胱の症状をもっているされ、潜在的な患者数は800万人以上と推定されています。そのうち約半数は切迫性尿失禁を伴います。男性の場合、前立腺肥大症があって過活動膀胱の症状がある場合と、前立腺肥大症はなく過活動膀胱の症状だけがある場合があります。

過活動膀胱には、脳と膀胱(尿道)を結ぶ神経のトラブルで起こる「神経因性」のものと、それ以外の原因で起こる「非神経因性」のものがあります。

  1. 神経因性過活動膀胱(神経疾患が原因)
    脳卒中や脳梗塞などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害の後遺症により、脳と膀胱(尿道)の筋肉を結ぶ神経の回路に障害が起きると、「膀胱に尿がたまったよ」「まだ出してはいけないよ」「もう出していいよ」「膀胱を緩めるよ(締めるよ)」「尿道を締めるよ(緩めるよ)」といった信号のやりとりが正常に働かなくなります。その結果、膀胱に尿がほとんど溜まっていないのに尿を出そうとしたり、「締める」「緩める」の連携がうまく働かず、過活動膀胱の症状が出ます。

  2. 非神経因性過活動膀胱(神経疾患とは無関係) 
    前立腺肥大症などで尿が出にくい状態(下部尿路閉塞)が続くと、狭い尿路から尿を排泄しようとするため膀胱に負荷がかかります。 これが繰り返されると、膀胱の筋肉が僅かな刺激に敏感に反応するようになり、過活動膀胱が起こります。

  3. 骨盤底筋のトラブル
    女性の場合、出産や加齢、体重増加によって膀胱・子宮・尿道などを支えている骨盤底筋が弱くなったり傷んだりすることが
    あります。そのために排尿のメカニズムがうまく働かなくなり、過活動膀胱が起きます。

  4. それ以外の原因
    上記以外の何らかの原因で膀胱の神経が過敏に働いてしまう場合や、原因が特定できない場合もあります。いくつかの原因が複雑にからみあっていると考えられています。この原因の特定できないものや加齢によるものが、実際には最も多く存在しています。

過活動膀胱の初期診断は、問診票である過活動膀胱症状質問票(OABSS)を使用します。「OABSSの質問3の尿意切迫感スコアが2点以上、かつ、OABSSが3点以上」だと過活動膀胱と診断されます。また、OABSSをOABの重症度判定基準として用いる場合は、合計スコアが5点以下を軽症、6~11点を中等症、12点以上を重症とします。

過活動膀胱症状質問票(OABSS)

以下の症状がどれくらいの頻度でありましたか。

この1週間のあなたの状態にもっとも近いものを、ひとつだけ選んで、点数の数字を○で囲んで下さい。

zoom.png
guide-luts-graph.png

「過活動膀胱診療ガイドライン」より

前立腺肥大症のある方は、まずは前立腺肥大症の治療を行い、効果が十分でないときに、過活動膀胱を考えた治療を加えたり、切り替えたりします。治療には薬物療法、手術療法と行動療法があります。薬物療法は主に、β-3作動薬、抗コリン薬を使用します。眼圧の上昇、口渇、便秘や尿閉などの副作用に注意しながら使い分けます。しかし、これらの治療薬を使用しても、副作用で内服継続が困難であったり、一定期間服用しても症状緩和がみられない場合(難治性過活動膀胱)があります。難治性過活動膀胱のかたには、一定条件を満たす場合には手術療法としてボトックス膀胱内注入療法も行えます。局所麻酔で行う短時間の外来手術として行います。ただし効果は恒久的ではなく(約半年間ー個人差あり)、繰り返し行うこともあります。

脳血管障害(脳梗塞や脳出血)や認知症、パーキンソン病などの脳の疾患、脊髄損傷や脊椎の変形性疾患(脊柱管狭窄症、椎間板

ヘルニア)などの神経疾患では、前立腺、膀胱などに異常がなくても下部尿路の機能障害を起こします。
他に、骨盤内の手術(直腸がん、子宮がんなど)を行ったあとに末梢神経障害を起こし、下部尿路症状が生じる場合もあります。糖尿病

などの内科的疾患でも末梢神経障害が発生します。

前立腺炎や膀胱炎などの尿路感染症でも排尿、蓄尿障害を起こすことがあります。この場合、感染症を治療することによって

症状は軽快します。

尿道狭窄は外傷や炎症の治癒過程で起こる瘢痕化によって起こります。また泌尿器科手術(経尿道的な内視鏡手術や前立腺がん

に対する前立腺全摘除術)後にも稀に発生します。この場合、内視鏡手術や尿道を拡張させる処置などで治療をします。

膀胱がん、前立腺がんが進行すると下部尿路症状を起こすことがあります。

その他の下部尿路障害の原因として以下のものがあります。

  1. 薬剤性:消化性潰瘍治療薬、鎮痙薬、パーキンソン病治療薬、感冒薬、抗精神病薬などで障害の原因となることがあります。

  2. 多飲:夜間頻尿の原因として水分の取りすぎによるものも多くあるといわれています。

  3. 睡眠障害:高齢者では一般的に睡眠が浅く、中途覚醒が多くなり、その結果夜間の尿回数が多くなります。

  4. 心因性:不安神経症やうつ病の患者に多く、強いストレスと身体症状で発症しますが、睡眠中には症状が消失するという特徴があります。下腹部の圧迫感や胃腸症状などの不定愁訴を高頻度に合併します。

2.jpg
bottom of page